地震や大雨が起きると、まず考えるのは「命を守ること」です。
しかし、安全な場所へ避難できた後には、
普段なら当たり前にできていた生活が難しくなります。
■水が出ない。
■トイレが使えない。
■横になれない。
■スマートフォンがつながらない。
■薬がない。
■周囲の目が気になって着替えられない——。
こうした問題は、
実際に避難所で暮らして
初めて深刻さに気づくものが少なくありません。
今回は、能登半島地震や熊本地震などで避難生活を経験した人、
避難所の運営に携わった人の記録を参考に、
避難生活で起こりやすい困りごとをラボってみましょう。
この記事について
被災者の体験は一人ひとり異なります。
本文では、
公的機関などが公開した体験記録を個人が特定されない形で要約し、
共通する課題として紹介しています。
すべての避難所に同じ状況が起こるという意味ではありません。
避難所へ着けば、すべて安心なの?
まどかママ:
「避難所に着いたら、水や食べ物、
布団は用意されていると思っていたわ」
防災すぐるパパ:
「自治体の備蓄があるから、
手ぶらでも何とかなるんじゃないかな?」
ラボる君:
「避難所は命を守る大切な場所だけど、
ホテルのように生活用品が全員分そろっているとは限らないよ。
想定以上の人が集まったり、
道路が壊れて物資が届かなかったり、
避難所自体が停電・断水したりすることもあるんだ」
実際、令和6年能登半島地震では、
100人程度を想定した施設に約300人が入り、
全員が横になれず、
基本的にはしゃがんで眠る状態だった
という避難所運営者の証言が残されています
毛布や簡易ベッドも足りず、
自宅へ取りに戻る人や車中泊を選ぶ人もいました。
避難所は「物が用意された完成済みの場所」ではなく、
避難した人、自治体職員、地域住民、支援者が
少しずつ生活環境を整えていく場所でもあります。
実際の避難生活で起こりやすい10の問題
1.最初に深刻になりやすい「トイレ」の問題
防災すぐるパパ:
「水や食料より先に、トイレが問題になるの?」
ラボる君:
「トイレは我慢できないし、断水しているのに水洗トイレを使うと、
便器や排水管が詰まることもあるんだ」
避難所のトイレでは、次のような問題が重なります。
- 断水で水を流せない
- 下水管や浄化槽の損傷が分からない
- 便器が詰まり、使用不能になる
- 仮設トイレが暗い、遠い、段差がある
- 清掃用品や処理する人手が不足する
- においや汚れが広がる
- 女性、子ども、高齢者が夜間に利用しにくい
能登半島地震の避難所運営者は、
プールの水で流していたトイレが詰まり、
後には便器へ袋をかぶせて排せつ物を回収した経験から、
トイレ問題を最優先にすべきだと振り返っています。
また、土足でトイレへ行き、
そのまま寝床へ戻る動線が感染拡大につながった可能性も語られています。
家庭でできる備え
- 携帯トイレ・簡易トイレを家族の人数と日数に合わせて備蓄する
- 凝固剤、黒い処理袋、防臭袋、手袋、消毒剤をセットにする
- 発災後は、排水設備の安全が確認できるまで水を流さない
- 自宅の便器で携帯トイレを使う手順を一度練習する
詳しい準備は、
[災害用トイレおすすめ|自宅・車中泊・避難所で使えるタイプ]も確認してください。
2.床が硬い・寒い・明るい・音がする「眠れない」問題
体育館や教室では、
床の硬さ、照明、人の話し声、足音、いびき、子どもの泣き声、
余震への恐怖などで眠れないことがあります。
能登半島地震を経験した小学生の体験記には、
避難当初は学校のマットで寝ていて硬かったこと、
その後、布団やテーブルのある教室に戻ると
以前より過ごしやすくなったことが記録されています。
睡眠不足が続けば、
判断力や体力が低下し、持病の悪化や転倒にもつながります。
「眠れないくらい仕方がない」と我慢し続けないことが大切です。
家庭でできる備え
- アルミマットや折り畳みマットで床の冷気と硬さを減らす
- 寝袋、毛布、上着、靴下を準備する
- アイマスクと耳栓を防災リュックに入れる
- 持病のある人は、避難所の受付や保健担当者へ早めに伝える
持ち物の全体像は、[避難所に持っていくもの|家族構成別チェックリスト]へつなげられます。
3.水・食料は「量」だけでなく内容にも困る
支援物資が届いても、
- ・同じパンやおにぎりが続く、
- ・温かいものが食べられない、
- ・野菜やたんぱく質が不足するなど、
食事の偏りが起こりやすくなります。
乳幼児、高齢者、食物アレルギーのある人、
糖尿病や腎臓病など食事制限のある人は、
配られたものを食べられないこともあります。
また、食料があっても水や燃料、調理器具がなければ調理できません。
まどかママ:
「非常食は家族全員が実際に食べられるかまで
確認しないといけないのね」
ラボる君:
「そうだね。避難生活では『カロリーがある』だけでなく、
食べ慣れていることや、開けやすさ、調理の要否も大切なんだ」
家庭でできる備え
- 飲料水は1人1日3リットルを目安に、
最低3日分、できれば1週間分を考える - 火や水を使わず食べられる食品も用意する
- アレルギー対応食や乳児用ミルクは家庭で多めに持つ
- 缶切り不要の食品、紙皿、スプーンもセットにする
- 普段の食品を食べながら補充するローリングストックを行う
詳しくは[備蓄は何日分必要?在宅避難・避難所・車中泊別に解説]と
[停電でも食べられるごはん]をご覧ください。
4.スマホがあっても「充電・電波・正しい情報」に困る
災害時には基地局の停電や回線の混雑、通信設備の損傷によって、
電話やインターネットが使いにくくなることがあります。
充電器があっても、避難所のコンセントが使えない場合もあります。
能登半島地震を経験した高校生は、
避難時にスマートフォンの充電がほとんど残っておらず、
モバイルバッテリーも持っていなかったことを振り返っています。
電波がつながらない中ではラジオを使い、
後に車のテレビから情報を得たそうです。
一方、祖母から渡されたランタンは暗い道で
避難者を誘導するのに役立ちました。
家庭でできる備え
- モバイルバッテリーを充電した状態で保管する
- 乾電池式または手回し式ラジオを用意する
- 家族の連絡先を紙にも書いておく
- 災害用伝言ダイヤル171や災害用伝言板の使い方を確認する
- SNSの未確認情報を拡散せず、
自治体・気象庁など複数の情報源で確かめる
詳しくは[災害が起きたらスマホは使える?通信障害と連絡方法(内部リンク)]へ内部リンクを設置してください。
5.入浴・歯磨き・洗濯ができない「衛生」の問題
断水が長引くと、
手洗い、歯磨き、入浴、洗濯が十分にできなくなります。
汗や汚れだけでなく、
口腔環境の悪化、皮膚トラブル、感染症など健康面にも影響します。
能登半島地震の避難所では、
循環式シャワーが届くまで日数がかかり、
利用開始後も長い列ができたという記録があります。
限られた設備を多くの人が共有するため、
使えるようになっても自由に入浴できるとは限りません。
家庭でできる備え
- ウェットティッシュ、体拭きシート、ドライシャンプー
- 歯ブラシ、液体歯磨き、入れ歯用品
- マスク、手指消毒剤、石けん
- 下着、靴下、タオル、ビニール袋
- 生理用品、おむつ、尿取りパッド
[防災リュックに入れたい衛生用品|忘れがちな必需品]にもつなげましょう。
6.プライバシーがなく、心が休まらない
仕切りのない体育館では、
寝顔、着替え、授乳、家族の会話まで
周囲から見えたり聞こえたりします。
知らない人の隣で長く暮らすことは、
大人にも子どもにも大きな負担です。
間仕切りが届くまで時間がかかった避難所もあります。
能登の体験記では、
壁がないことで普段なら見えないものまで見え、
小さな揉め事の原因になったこと、
希望に応じて部屋替えを調整したことが語られています。
家庭でできる備え
- 大判ストール、ポンチョ、洗濯ばさみを簡易目隠しに使う
- 着替え用ポンチョや携帯更衣テントを検討する
- 貴重品は体から離さず、小型バッグで管理する
- 女性や子どもだけになる場所、暗い場所を避ける
- 困ったときは我慢せず、受付や運営担当者へ相談する
7.薬・持病・こころの不調を伝えにくい
避難時に薬を持ち出せなかった、
薬の名前が分からない、
かかりつけ医へ連絡できない
という問題も起こります。
長時間同じ姿勢で過ごすことや水分を控えることは、
体調悪化の一因にもなります。
さらに、
■余震のたびに恐怖を感じる、
■家のことが心配で眠れない、
■突然涙が出る、
■子どもが親から離れなくなる
など、心にも反応が現れます。
災害直後の自然な反応もありますが、
つらさを一人で抱える必要はありません。
家庭でできる備え
- お薬手帳を持ち出しやすい場所に置き、スマホにも写しておく
- 処方薬は可能な範囲で余裕をもって管理する
- 病名、薬、アレルギー、緊急連絡先を書いたカードを用意する
- 体調不良や不安は、巡回する医療・保健スタッフへ早めに伝える
- 無理に体験を語らせず、子どもにも安心できる日課をつくる
8.高齢者・障害者・妊産婦・乳幼児への配慮が足りない
避難所には、
■階段を上れない人、
■音や光に敏感な人、
■集団生活が難しい人、
■人工呼吸器など電源が必要な人もいます。
一般の避難スペースでは生活が難しく、
本人や家族が周囲へ遠慮してしまうこともあります。
「困っていることが外見から分からない」場合もあるため、
本人だけに説明や交渉を任せない仕組みが必要です。
家庭でできる備え
- 個別避難計画や避難先を家族・支援者と確認する
- 必要な介助、コミュニケーション方法をカードに書く
- 補聴器・眼鏡・予備電池・医療機器用電源を準備する
- 一般避難所が難しい場合に備え、福祉避難所の仕組みを自治体へ確認する
- 乳幼児用品や介護用品は家庭で持ち出せるようにする
9.ペットと一緒に過ごせないことがある
ペット同行避難とは、
ペットと一緒に安全な場所まで逃げることです。
避難所の同じ居住空間で
一緒に過ごせる「同伴避難」とは異なります。
動物が苦手な人やアレルギーのある人もいるため、
飼育場所やルールは避難所ごとに異なります。
「避難所へ行けばいつも隣に置ける」と考えず、
事前確認が必要です。
家庭でできる備え
- ケージやキャリーバッグに慣らす
- フード、水、薬、トイレ用品を備蓄する
- 飼い主と分かる写真や迷子札を用意する
- 親戚、知人、ペット可宿泊先など複数の預け先を考える
詳しくは[ペットのいる家庭の防災|同行避難の準備]へつなげます。
10.避難者同士・運営側にも疲れがたまる
避難生活が長引くと、
生活音、場所取り、掃除、物資配布、ペット、喫煙、
消灯時間などをめぐって摩擦が生まれます。
避難者も運営者も被災者であり、
睡眠不足と先の見えない不安を抱えています。
能登の避難所では、
生活が2週間ほど続いた頃から同じ部屋の人同士に軋轢が出始め、
運営者が「周囲にいる人は敵ではなく仲間だ」という趣旨の放送をして
落ち着かせた記録があります。
一方で、被災者同士が役割を分担し、
顔見知りでなかった人とも協力できたという声もあります。
避難所生活はつらいだけでなく、
地域のつながりが支えになる場でもあるのです。
「困っています」と伝えることは、わがままではない
まどかママ:
「みんなが大変なときに、
自分の希望を言うのは申し訳ない気がするわ」
ラボる君:
「遠慮して体調が悪くなったら、もっと苦しくなるよ。
特に薬、食物アレルギー、妊娠、介助、心の不調、
安全に関わることは早めに伝えてね」
避難所では、
声の大きい人の要望だけが見えやすくなることがあります。
受付や相談票、女性スタッフ、保健師など、
話しやすい相手を探してください。
本人が話せない場合は、
家族や周囲の人が本人の同意を得て手伝います。
ただし、
支援物資を受け取るために危険な道を移動したり、
壊れた自宅へ荷物を取りに戻ったりしてはいけません。
まず命の安全が最優先です。
避難所以外の避難も考えておこう
自宅が安全で生活できるなら在宅避難、
親戚や知人宅、宿泊施設などへの分散避難も選択肢です。
ただし、
「避難所へ行かない=支援を受けられない」
とは限りません。
自治体へ在宅避難者としての登録方法や物資配布場所を確認しましょう。
車中泊はプライバシーを確保しやすい一方、
エコノミークラス症候群、
一酸化炭素中毒、暑さ・寒さ、浸水、車両火災など
別の危険があります。
[車中泊は安全?災害時に車で避難するときの注意点]を確認してください。
家族で今日決めたい「避難生活の準備」
| 確認すること | 家族で決める内容 |
|---|---|
| 避難先 | 指定避難所だけでなく、親戚宅・知人宅・安全な在宅避難も検討 |
| 連絡方法 | 171、災害用伝言板、集合場所、遠方の連絡役 |
| 持ち出し品 | 薬、眼鏡、衛生用品、携帯トイレ、ライト、充電器を優先 |
| 個別の事情 | アレルギー、持病、介護、妊娠、乳幼児、障害、ペット |
| 備蓄量 | 最低3日分、できれば1週間を目安に家庭の事情で調整 |
| 役割分担 | 誰が子ども・高齢者・ペットを支援し、誰がリュックを持つか |
防災すぐるパパ:
「防災グッズを買うだけでは足りないんだね」
ラボる君:
「うん。トイレを実際に組み立てたり、連絡方法を試したり、
家族それぞれの困りごとを話したりすることまでが備えなんだ」
まとめ|避難生活を想像すると、本当に必要な備えが見えてくる
災害時に困るのは、水や食料の不足だけではありません。
- トイレと衛生
- 硬い床、寒暖差、騒音による睡眠不足
- 充電・通信・情報不足
- 入浴、歯磨き、着替え
- プライバシーと防犯
- 薬、持病、心のケア
- 子ども、高齢者、障害者、妊産婦への配慮
- ペットの居場所
- 人間関係と避難所運営
被災した人たちの声から分かるのは、
「避難所へ行けば何とかなる」と考えるのではなく、
最初の数日を自分たちでも支えられる準備が必要だということです。
すべてを一度に買いそろえる必要はありません。
まずは
携帯トイレ、
飲料水、
いつもの薬、
ライト、
充電手段
から始めましょう。
そして家族で「避難所へ行ったら、
私たちは何に困りそうか」を話すことが、
命と暮らしを守る第一歩になります。
ラボる君:
「困る場面を先に知ることは、怖がるためじゃないよ。
困ったときに慌てず動けるようにするためなんだ。
一つずつ、一緒に備えていこうね」

