「自宅はハザードマップの浸水区域から外れているから大丈夫」
「ここまで津波が来たことはない」
「避難場所まで来たから、もう安全だろう」
災害時、こうした「想定」が判断の基準になることがあります。
もちろん、ハザードマップや被害想定は防災に欠かせない重要な情報です。
しかし、
想定は「ここを超えれば絶対安全」という境界線ではありません。
自然災害は、事前に想定された範囲や規模を超えることがあります。
そこで覚えておきたい防災格言が、
「想定にとらわれるな」
です。
今回は、この言葉が何を意味するのか、東日本大震災の教訓や津波避難の3原則、ハザードマップとの正しい付き合い方から考えます。
① 防災格言「想定にとらわれるな」とは?
「想定にとらわれるな」は、
想定を無視しろ
という意味ではありません。
内閣府の地区防災計画関連資料では、「津波避難の3原則」として、
原則1 想定にとらわれるな
原則2 その状況下で最善を尽くせ
原則3 率先避難者たれ
が紹介されています。防災情報提供センター
「想定にとらわれるな」については、
ハザードマップはあくまで想定であり、
その通りに津波が来るとは限らないため、
想定だけにとらわれず避難することが重要だと説明されています。
防災情報提供センター
つまり、
想定は避難判断の材料にはする。でも、想定を安全保証にはしない。
これが大切です。
② この言葉が生まれた背景|津波避難の3原則
「想定にとらわれるな」は、
群馬大学大学院教授を務めた片田敏孝氏が提唱した
「津波避難の3原則」の一つとして知られています。
内閣府資料でもそのように紹介されています。
防災情報提供センター
特に広く知られるようになったのが、
2011年3月11日の東日本大震災
です。
岩手県釜石市では以前から津波防災教育が行われ、
- 想定を信じるな
- 最善を尽くせ
- 率先避難者たれ
という考え方が教えられていました。
内閣府の防災白書資料でも、
こうした教育と避難行動の事例が紹介されています。
防災情報提供センター
ここで重要なのは、
「ハザードマップを見る必要はない」
という教訓ではありません。
むしろ、
事前に危険を知るためにハザードマップを使う。
そのうえで、
実際に災害が起きたら、
目の前の状況に応じてより安全な行動を選ぶ。
という考え方です。
③ 「ハザードマップの外だから安全」とは限らない
ハザードマップを見ると、
色が付いている場所と、
色が付いていない場所があります。
すると、
「うちは色が付いていないから大丈夫」
と思ってしまうかもしれません。
しかし、
色が付いていない=絶対に災害が起きない
という意味ではありません。
ハザードマップは、一定の前提や想定に基づいて作られています。
自然現象には不確実性があり、
実際の地震・津波・豪雨などが想定と完全に同じになるとは限りません。
だからこそ、
ハザードマップは「安全マップ」ではなく
「危険を考えるための地図」
として使うことが重要です。
④ 東日本大震災が教えた「ここまで逃げれば大丈夫」の危険
「想定にとらわれるな」と一緒に覚えたいのが、
「最善を尽くせ」
です。
内閣府資料では、
「ここまで逃げれば大丈夫」と考えるのではなく、
その時にできる最善の行動を取ることが重要だと説明されています。
防災情報提供センター
例えば津波から避難して、
「指定された場所まで来た」
としても、
周囲の状況を見て、
さらに高い場所へ移動できる
のであれば、
状況に応じて行動することが命を守ることにつながります。
内閣府の資料でも、東日本大震災時の釜石で、
避難してきた人たちが津波の勢いを見て、
指定避難場所より
さらに高い場所へ避難した事例が紹介されています。
つまり、
「避難場所に着いた=思考停止」ではない
ということです。
⑤ 津波では「予想された高さ」だけで判断しない
津波の場合は特に重要です。
気象庁は、津波が沿岸地形などの影響によって
局所的に予想より高くなる場合があると説明しています。
気象庁
さらに、震源が陸地に近い場合には、
津波警報・注意報が津波の襲来に間に合わないことがあります。
そのため気象庁は、海の近くで強い揺れ、
または弱くても長い揺れを感じた場合には、
警報を待たず避難を開始するよう呼びかけています。
つまり、
「津波警報がまだ出ていない」
「予想高さがそれほど高くない」
という情報だけで、
「だから逃げなくていい」
と判断しないことが重要です。
⑥ 「前回は大丈夫だった」も一つの想定
想定は、行政が作るものだけではありません。
私たち自身も日常的に「想定」を作っています。
例えば、
- 「前回の台風では大丈夫だった」
- 「この川は今まで氾濫したことがない」
- 「この地域まで津波は来ないだろう」
- 「避難所まで行けば絶対安全だろう」
といった経験です。
過去の経験は、防災を考える材料にはなります。
- しかし、
- 過去に大丈夫だったことは、次も大丈夫という保証ではありません。
- 地震の規模も違います。
津波の高さも違います。
雨の降り方も違います。
川の水位も違います。
災害が発生する時間帯も違います。
だから、
「前回大丈夫だった」
を避難しない理由にしないことが大切です。
⑦ 大雨・土砂災害でも「想定にとらわれない」
この考え方は津波だけではありません。
例えば大雨です。
気象庁は線状降水帯に関する情報について、
大雨災害の危険度が急激に高まっている状況で
発表する情報だと説明しています。
危険な場所にいる場合には自治体の避難情報に従うほか、
周囲の状況を確認し、避難場所への移動がかえって危険なら、
崖や沢から少しでも離れた建物や、
浸水しにくい高い場所へ移るなど身の安全を確保するよう案内しています。
つまり、
決めていた避難方法に固執しない
ことも重要です。
「避難所へ行くと決めていたから」
と、すでに道路が冠水している中を無理に移動することが最善とは限りません。
その時点の状況から、
「今できる最も安全な行動は何か?」
を考えます。
⑧ 「想定にとらわれるな」はハザードマップ否定ではない
ここは誤解しないようにしましょう。
「想定にとらわれるな」と聞くと、
「それならハザードマップを見る意味がないのでは?」
と思うかもしれません。
違います。
むしろ事前にハザードマップを確認することは重要です。
災害が起きてから、
「どこが危ない?」
「どこへ逃げる?」
と調べるのでは遅れる可能性があります。
平常時に、
自宅はどんな災害の危険があるか
職場はどうか
学校はどうか
避難場所はどこか
どの道を使うか
を確認しておきます。
そのうえで、
「実際の災害は想定通りとは限らない」
という余白を持っておく。
これが「想定にとらわれるな」の実践です。
⑨ 「想定にとらわれるな」を実践する7つの備え
では、普段から何をしておけばいいのでしょうか。
1.ハザードマップを見る
まず、自宅・職場・学校周辺にどんな災害リスクがあるのか確認します。
2.避難場所を一つだけにしない
第一候補だけではなく、
第二候補
まで考えておきます。
3.避難経路も複数確認する
橋が通れない。
道路が冠水している。
建物が倒れている。
そうした状況も考えて、複数ルートを確認します。
4.「ここまで逃げれば絶対安全」と考えない
津波なら、状況に応じて可能な限り安全な高い場所を目指します。
気象庁も津波避難では、
海の近くで強い揺れなどを感じたらただちに海辺から離れ、
より高い安全な場所へ避難することを呼びかけています。気象庁データ
5.家族で避難ルールを決める
「家族が揃うまで待つ」
ではなく、
それぞれが危険から離れる
ことを基本にします。
これは防災格言①「津波てんでんこ」にもつながります。
6.避難した後も情報を確認する
安全な場所へ移動したら、
気象庁・自治体などから最新情報を確認します。
津波は繰り返し襲うため、
気象庁は津波警報・注意報が解除されるまで
避難を続けるよう呼びかけています。気象庁
これは防災格言⑧、
につながります。
7.避難訓練を「答え合わせ」にする
避難訓練では、
「避難場所まで行けたから終了」
だけではなく、
この道が塞がったら?
夜だったら?
大雨だったら?
家族が別々だったら?
まで考えてみましょう。
防災格言⑥「率先避難者たれ」とセットで覚えよう
第6回で紹介した、
と今回の言葉は、
もともと同じ「津波避難の3原則」に含まれています。
防災情報提供センター
順番に並べると、
① 想定にとらわれるな
↓
② その状況下で最善を尽くせ
↓
③ 率先避難者たれ
です。
つまり、
「ハザードマップではここまでだから大丈夫」
と決めつけず、
「今、もっと安全な場所へ行けるか?」
と考え、
「誰かが逃げるまで待つ」のではなく、
自分から避難する。
3つで一つの考え方になっています。
防災格言①「津波てんでんこ」ともつながる
「想定にとらわれるな」は、
第1回の
ともつながります。
家族が心配だから迎えに行く。
周囲の人が逃げていないから自分も待つ。
そうしている間にも津波は近づいてくる可能性があります。
内閣府資料では、釜石市の防災教育について
「津波てんでんこ」
と
「津波避難の3原則」の双方が紹介されています。防災情報提供センター
普段から家族全員が、
「津波のときは、それぞれが避難する」
と共有しておくことが重要です。
防災格言⑦「空振りは許されるが、見逃しは許されない」ともつながる
「想定にとらわれるな」と考えて早めに避難した結果、
何も起きなかった。
そんなこともあります。
でも、
「逃げなくてもよかったじゃないか」
と考える必要はありません。
これは第7回、
「空振りは許されるが、見逃しは許されない」
につながります。
結果として何も起きなかったことと、
避難判断が間違っていたことは同じではありません。
避難した経験は、
次の災害に備える実践的な訓練にもなります。
防災格言⑧「逃げたら戻らない」へつなげる
そして避難した後は、
第8回の、
「逃げたら戻らない」
です。
津波は一度だけとは限りません。
気象庁は、津波は長時間にわたって繰り返し襲ってくるため、
警報・注意報が解除されるまで避難を続けるよう呼びかけています。気象庁
つまり、
想定にとらわれず
↓
率先して逃げ
↓
安全な場所まで避難し
↓
逃げたら戻らない
という一連の避難行動として考えられます。
「想定にとらわれるな」から学ぶ本当の教訓
防災には、
- ハザードマップがあります。
- 被害想定があります。
- 津波予想があります。
- 避難場所があります。
これらはすべて重要です。
しかし、
自然災害は、人間が引いた線どおりに起きるとは限りません。
だから、
「想定を知らなくていい」
のではなく、
「想定を知ったうえで、想定だけに命を預けない」
ことが重要なのです。
防災ラボるの「知備即行」
今回の防災格言を「防災ラボる」の考え方、
知備即行(ちびそっこう)
に当てはめてみます。
知る
ハザードマップや被害想定は、絶対的な安全境界ではないと知る。
備える
避難場所・避難経路を複数考えておく。
即行
実際の災害では、想定だけにとらわれず、
目の前の状況からより安全な行動を取る。
これが今回の、
「想定にとらわれるな」
から学べる防災行動です。
今日の「1日1防災」
今日は自宅のハザードマップを開いてみてください。
そして、
「いつもの避難場所へ行けなかったら、次はどこへ逃げる?」
を考えてみましょう。
第一避難先だけでなく、
第二候補の安全な場所
と、
別の避難経路
を家族で一つ確認します。
たったこれだけでも、
「想定外」が起きたときの選択肢を増やせます。
まとめ|想定を知る。そして、想定だけに頼らない
防災格言⑨は、
「想定にとらわれるな」
です。
この言葉が教えているのは、
「ハザードマップを信用するな」
ということではありません。
むしろ、
想定を知る。
⇩
危険な場所を知る。
⇩
避難場所を知る。
⇩
避難経路を知る。
そこまで準備したうえで、
実際の災害では「想定以上かもしれない」と考える。
そして、
「ここまで来たから大丈夫」
ではなく、
その状況でできる最善の行動を続ける。
防災では、
「想定外だった」
という言葉を、命を失った後の説明にしないための備えが必要です。
想定を知る。
想定に備える。
でも、想定だけに命を預けない。
それが「想定にとらわれるな」という言葉から、
今の私たちが学べる大切な教訓です。

