防災格言⑩は「最善を尽くせ」。
津波避難の三原則の一つで、最初に避難した場所を絶対安全と思わず、
状況に応じてより安全な場所を考える教訓です。
東日本大震災の教訓や気象庁の津波避難情報とともに、
現代の備えを解説します。
避難場所を想定外の災害が襲う危険性があります。
災害から逃げて、避難場所に到着した。
「ここまで来たから、もう大丈夫」
そう思いたくなるかもしれません。
しかし、特に津波からの避難では、
最初に逃げた場所が最も安全な場所とは限りません。
今回の「防災格言・災害の教訓」第10回は、
「最善を尽くせ」
です。
これは、片田敏孝氏が提唱した「津波避難の三原則」の一つとして
政府広報や内閣府でも紹介されている言葉です。
「避難した先が本当に安全なのか」
「さらに安全な場所へ移動できないか」を考え、
その状況でできる最善の避難行動を取るという考え方です。
防災ラボるが大切にする「知備即行(ちびそっこう)」の視点から、
この言葉を掘り下げます。
今回の防災格言
最善を尽くせ
短い言葉ですが、
重要なのは「一度避難したら終わり」ではないことです。
例えば津波から逃げて避難場所へ着いたとしても、
周囲の状況を見て、
「もっと高い場所へ移動できないか」
「ここに留まり続けるのが本当に安全なのか」
と考える。
内閣府は「最善をつくせ」について、
一時的に避難した場所を一番安全な場所だと決めつけず、
より安全な別の場所へ避難できないかを考え、
その時にできる最善の避難行動を取ることだと説明しています。
「最善を尽くせ」の意味
この言葉を、
「危険を冒してでも、とにかく遠くまで逃げろ」
と解釈してはいけません。
重要なのは、
その時の状況の中で、より安全な行動を考えること。
です。
災害時には、
■平常時に想定していた避難経路が使えないこともあります。
■道路が塞がっている。
■橋が渡れない。
■停電している。
■想定していた場所まで移動する時間がない。
こうした状況では、
「予定していた避難場所へ行く」ことそのものに固執すると、
かえって危険になる場合があります。
例えば気象庁も土砂災害について、
道路冠水や暴風などで指定緊急避難場所への移動が危険な状況では、
その場所より相対的に安全な場所へ
直ちに移るなどの「次善の行動」を示しています。
つまり、
防災には「絶対にこの行動」という答えがない状況もある。
だからこそ、平常時から判断できる準備をしておくことが重要です。
この言葉が生まれた背景|津波避難の三原則
「最善を尽くせ」は単独の格言というより、
片田敏孝氏が提唱した「津波避難の三原則」の一つです。
政府広報では次の3つとして紹介されています。
② 最善を尽くせ
③ 率先避難者たれ
「想定にとらわれるな」は、防災格言⑨で紹介したように、
ハザードマップなどを無視するという意味ではありません。
想定を防災に活用しながらも、
「想定範囲の外だから絶対安全」
と思い込まないことです。
そして今回の、
「最善を尽くせ」
は、実際に避難を始めた後の行動にもつながります。
避難した。
でも終わりではない。
さらに安全な場所へ行けるなら、より安全な場所を目指す。
この考え方です。
東日本大震災と「最善を尽くせ」
この三原則を語るうえで重要なのが、2011年3月11日の東日本大震災です。
内閣府は、東日本大震災で東北地方沿岸部が
大津波による甚大な被害を受けた中、
岩手県釜石市の児童・生徒の多くが無事だった事例を紹介し、
片田氏による防災教育と「津波避難の三原則」に触れています。
ただし、ここから、
「この三原則さえ守れば必ず助かる」
と考えるべきではありません。
災害の状況、場所、避難可能な時間、
身体状況などによって取れる行動は異なります。
重要なのは、
災害時に自分でより安全な行動を考える姿勢を、
平常時から身につけること
です。
「避難場所に着いた=絶対安全」ではない
「最善を尽くせ」を現在の防災に置き換えると、
非常に重要な教訓になります。
例えば津波避難。
高台へ逃げた。
避難場所へ到着した。
そこで安心してしまう。
しかし気象庁は、
津波は沿岸の地形などの影響で
局所的に予想より高くなる場合があるため、
「ここなら安心」と思わず、
より高い場所を目指して避難するよう呼びかけています。
つまり、
「避難できた」ことと「安全が確定した」ことは同じではありません。
津波は一度来たら終わりではない
もう一つ重要なのがこれです。
第一波が最大とは限りません。
津波は長時間にわたり繰り返し襲来することがあります。
気象庁も、津波は繰り返し襲ってくるため、
津波警報・注意報が解除されるまでは避難を続けるよう呼びかけています。
だから、
「津波が来た」
↓
「思ったほど大きくなかった」
↓
「もう大丈夫だろう」
↓
「家へ戻る」
という判断は危険です。
防災格言⑧の、
「逃げたら戻らない」
にもつながります。
「最善を尽くせ」は、避難中にも更新される
災害時の状況は刻々と変化します。
最初はA避難場所が最善だった。
しかし状況が変化して、
さらに高いB避難場所へ安全に移動できる
のであれば、Bの方が適切な場合があります。
逆に、道路が危険な状態になっているなら、
むやみに移動せず、その場でより安全を確保する
という判断が必要になることもあります。
つまり、
「最善」は固定された避難場所の名前ではありません。
その時点で得られる情報と周囲の状況から判断するものです。
「より高い場所」を事前に調べておく
「最善を尽くせ」と言われても、
災害が起きてから避難場所を探していては
間に合わない可能性があります。
だから平常時の備えが重要です。
気象庁も、津波に備えて、
自宅・学校・職場周辺の危険な場所
津波避難場所・避難ビル
避難経路
などを事前に確認するよう案内しています。
さらに、避難場所は一か所だけではなく、
さらに高い場所にある避難先も調べておくことを勧めています。
これは「最善を尽くせ」を実行するための非常に具体的な準備です。
「第2避難先」を家族で決めておこう
防災ラボるでは、さらに一歩進めて、
第1避難先だけでなく、
第2避難先も考えておく
ことをおすすめします。
例えば、
第1避難先:近くの津波避難ビル
第2避難先:さらに標高の高い指定緊急避難場所
といった形です。
もちろん、実際に第2避難先へ移動するかどうかは、
津波の状況や避難経路の安全性などを踏まえて判断します。
大切なのは、
「ここがダメだったらどうする?」
を平常時に考えておくことです。
情報を待ちすぎないことも「最善」
災害時にはスマートフォンを確認したくなります。
しかし津波の場合、
「警報が出たら逃げよう」
では遅れる可能性があります。
気象庁は、震源が陸地に近い場合、
津波警報・注意報が津波襲来に間に合わないことがあると説明しています。
そのため海の近くで、
強い揺れ
または、
弱くても長い揺れ
を感じた場合には、すぐ避難を開始することが重要です。
情報を集めてから避難するのではなく、
まず避難し、その後で情報を確認する。
気象庁の津波防災資料でも「何よりも津波から逃げることが大切。
避難してから最新の情報を確認」としています。
「最善を尽くせ」を日常の備えに変える5つの行動
この格言を知識だけで終わらせないために、
平常時にやっておきたいことがあります。
- ハザードマップで自宅・職場・学校の危険を確認する
- 第1避難先を確認する
- さらに安全な第2避難先も調べる
- 実際に避難経路を歩いてみる
- 家族で「どこまで逃げるか」を話し合う
特に重要なのが④です。
地図では近く見えても、
急な坂。
狭い道路。
ブロック塀。
川。
踏切。
などがあるかもしれません。
実際に歩くことで、
「本当にこのルートで逃げられるのか?」
が見えてきます。
気象庁も、実際に避難経路をたどるなど、
訓練への参加を日頃の備えとして挙げています。
「最善を尽くせ」は津波だけの教訓ではない
この言葉の出発点は津波避難ですが、
その考え方は他の災害を考えるうえでも参考になります。
例えば大雨。
予定していた避難所までの道路がすでに冠水している。
この場合、
「避難所へ行くと決めていたから行く」
ことが最善とは限りません。
気象庁も、指定緊急避難場所への移動がかえって危険な状況では、
その時点でより安全な場所へ移るなど
「次善の行動」を取るよう案内しています。
防災で重要なのは、
決めた行動を機械的に続けることではなく、
状況の変化に対応すること
なのです。
防災格言⑨と⑩はセットで覚えよう
前回の格言は、
第9回 想定にとらわれるな
でした。
そして今回は、
第10回 最善を尽くせ
です。
この2つは密接につながっています。
想定にとらわれるな
↓
ハザードマップや過去の経験だけで「絶対安全」と思わない。
最善を尽くせ
↓
実際の状況を見ながら、その時できるより安全な行動を考える。
そして、この後に続く三原則が、
「率先避難者たれ」
です。
- 「想定にとらわれるな」
- 「最善を尽くせ」
- 「率先避難者たれ」
は、別々の標語ではなく、
津波から命を守るための一連の考え方
として理解すると分かりやすくなります。
防災ラボるの「知備即行」
今回の「最善を尽くせ」を、
防災ラボるの考え方「知備即行(ちびそっこう)」に当てはめてみます。
知る
災害では、最初に決めた避難場所が常に最善とは限らないと知る。
備える
第1避難先だけでなく、より安全な第2避難先や別ルートも確認しておく。
即行
強い揺れや長い揺れを感じたら、情報を待ち続けず避難を始める。
避難後も状況を確認し、必要ならより安全な行動を取る。
知って、備えて、その時できる最善をすぐ行動に移す。
これが「最善を尽くせ」を現代の防災に生かす方法です。
まとめ|避難は「着いたら終わり」ではない
防災格言⑩は、
「最善を尽くせ」
です。
この言葉が教えているのは、
完璧な判断をしろ
ということではありません。
災害時に完璧な情報が揃うとは限らないからです。
大切なのは、
「今いる場所より安全な場所はないか?」と考え続けること。
津波から逃げた。
避難場所に着いた。
それでも、
「ここで本当に大丈夫か?」
「さらに安全な場所へ移動できるか?」
と考える。
そして平常時には、その判断ができるように避難先や避難経路を調べておく。
避難場所はゴールではない。
命を守れる場所まで避難する。
「最善を尽くせ」は、
そのために覚えておきたい防災格言です。
