災害による犠牲は、建物の倒壊、津波、
火災などによる直接死だけではありません。
助かった後の避難生活で体調を崩し、
持病の悪化、感染症、血栓症、肺炎、
心身の疲労などが重なって亡くなる「災害関連死」があります。
特に断水が長引くと、お風呂に入れない、
手を洗えない、トイレを清潔に保てない、
歯を磨けないといった問題が生じます。
ただし、「数日間お風呂に入れないこと」だけで
災害関連死になるわけではありません。
衛生状態の悪化に、脱水、食事不足、服薬中断、睡眠不足、
運動不足、寒暖差やストレスなどが重なり、
健康状態が徐々に悪くなることが大きな問題です。
今回は
入浴できない避難生活における災害関連死の実態と、
家庭で実践できる衛生・健康対策を、ラボる君と一緒に考えます。
災害関連死は「助かった後」に起きる
「ラボる君、災害関連死って、どんな亡くなり方なの?」
防災すぐるパパが尋ねました。
「地震や津波などで直接亡くなるのではなく、
避難生活の負担や災害によるけがの悪化などが
原因となって亡くなることだよ」
らぼる君が答えます。
復興庁などの資料では、震災関連死を、
災害による負傷の悪化や
避難生活における身体的負担による疾病によって亡くなり、
災害弔慰金の対象となった人として扱っています。

災害関連死につながる主な要因
- 持病の薬を飲めなくなる
- 医療機関や介護サービスを利用できなくなる
- 水分や食事が不足する
- トイレを避けるため水分を控える
- 長時間動かず血栓ができる
- 口腔ケアが不足して肺炎につながる
- 不衛生な環境で感染症が広がる
- 暑さや寒さで体力を失う
- 睡眠不足や強いストレスが続く
- 避難の移動で身体へ負担がかかる
- 誰にも体調変化を気づいてもらえない
これらは一つだけでなく、
いくつも重なって健康状態を悪化させます。
災害関連死の実態
令和7年版防災白書によると、
令和6年能登半島地震では、
2025年5月13日時点で死者・行方不明者594人のうち、
災害関連死が364人とされていました。
これは集計時点の数字ですが、
直接的な災害から助かった後にも、
多くの命が失われることを示しています。
また、東日本大震災に関する復興庁の初期調査では、
震災関連死の多くを高齢者が占めていました。
高齢者、障害のある人、妊婦、乳幼児、持病のある人などは、
避難生活による影響を特に受けやすいため、
早い段階から健康状態を確認する必要があります。
入浴できないことだけが死因ではない
災害関連死の認定は、
医師の診断書、避難経路、避難生活の状況、持病、
死亡までの経過などを自治体が調査し、
災害との因果関係を判断します。
そのため、
単純に「お風呂に入れなかったから亡くなった」
と分類されるわけではありません。
しかし、断水による衛生環境の悪化は、
次のような連鎖を生む可能性があります。
だからこそ、入浴できない間も
「体を部分的に清潔にする」
「水分を取る」「薬を続ける」
「異変を早く見つける」
という対策が重要です。
入浴できないと何が起こる?
「何日かお風呂に入れないくらいなら、
我慢すればいいんじゃない?」
防災すぐるパパが言いました。
「健康な人なら、入浴できないこと自体で
すぐ命に関わるとは限らないよ。
でも、高齢者や皮膚病、糖尿病などの持病がある人は注意が必要なんだ」
皮膚のトラブル
汗、皮脂、尿、便などが皮膚に残ると、
次のような問題が起こりやすくなります。
- かゆみ
- 湿疹
- かぶれ
- あせも
- 水虫
- 傷の化膿
- おむつかぶれ
- 褥瘡の悪化
特に寝たきりの人やおむつを使用している人は、
同じ場所が蒸れたり圧迫されたりしないよう、
毎日の観察が必要です。
口の中の衛生悪化
水が少ないと、歯磨きを控えがちです。
しかし、口の中に細菌が増えると、虫歯や歯周病だけでなく、
高齢者では誤嚥性肺炎の危険にもつながります。
入れ歯を使用している人も、可能な範囲で毎日外して清掃します。
痛みや傷がある場合は、歯科医療チームや保健師へ相談しましょう。
トイレを我慢することによる問題
汚れたトイレを使いたくないため、
水分を控えたり排泄を我慢したりすると、
次の問題が起こる可能性があります。
- 脱水
- 便秘
- 尿路感染症
- 熱中症
- 血栓症
- 食欲低下
- 持病の悪化
厚生労働省も、避難生活では十分な水分摂取と定期的な運動を行い、
エコノミークラス症候群を予防するよう案内しています。
お風呂に入れないときは「部分清拭」で清潔を保つ
入浴できないときは、
体全体を一度に洗おうとする必要はありません。
汗や汚れがたまりやすい部分を優先して、
少ない水で拭き取ります。
これを清拭(せいしき)といいます。
優先して拭きたい場所
- 顔と首
- 脇の下
- 胸の下や腹部のしわ
- 手と指の間
- 陰部とお尻
- 足の付け根
- 足と指の間
- 傷やおむつの周辺
首、脇、足の付け根などは、皮膚同士が重なって蒸れやすい部分です。
拭いた後は、水分を残さず乾かします。
少ない水で体を拭く方法
用意する物は次のとおりです。
- 体拭き用ウェットタオル
- 清潔なタオル2~3枚
- 洗面器またはポリ袋
- 少量のぬるま湯
- せっけんまたは清拭剤
- 中身の見えないごみ袋
- 保湿剤
- 着替え
ぬるま湯を用意できる場合は、タオルをぬらして固く絞り、
体を少しずつ拭きます。
汚れが少ない上半身から始め、陰部やお尻は最後にします。
一枚のタオルで全身を拭き続けず、
顔・体・陰部でタオルを分けると衛生的です。
清拭するときの注意点
- 室温を確認し、体を冷やさない
- 一度に全身を裸にしない
- 一部分ずつ衣服を外して拭く
- 強くこすらない
- 傷や赤み、腫れ、ただれを観察する
- ぬれた部分をよく乾かす
- 必要に応じて保湿剤を薄く塗る
- 使用済みタオルを他人と共用しない
乳幼児、高齢者、障害のある人を清拭するときは、
転倒や低体温、プライバシーにも配慮します。
水を使わず清潔を保つ防災グッズ
断水時は、水を使わない衛生用品が役立ちます。
| 部位・目的 | 備えておきたい物 |
|---|---|
| 全身 | 大判の体拭きシート、清拭タオル |
| 手 | ウェットティッシュ、手指消毒液 |
| 頭髪 | ドライシャンプー、頭皮用シート |
| 口腔 | 歯ブラシ、液体歯磨き、口腔ケアシート |
| 陰部 | デリケートゾーン用シート、清浄綿 |
| トイレ | 携帯トイレ、凝固剤、防臭袋 |
| 衣類 | 下着、靴下、速乾性の衣服 |
| 皮膚 | 保湿剤、ワセリン、常用している塗り薬 |
| 清掃 | ペーパータオル、ごみ袋、使い捨て手袋 |
| プライバシー | 大判ポンチョ、目隠し用の布 |
肌が弱い人は、
アルコールや香料を含む製品で炎症を起こすことがあります。
普段から使用して肌に合う物を備蓄しましょう。
手洗いできないときの感染症対策
避難所や在宅避難では、
トイレ、食事、ごみ処理などを通して感染症が広がることがあります。
水が使えるとき
せっけんと流水で、指の間、指先、親指、手首まで洗います。
汚れが目に見える場合は、アルコール消毒だけで済ませず、
可能な限り手を洗います。
水が使えないとき
- ウェットティッシュなどで目に見える汚れを拭く
- 手を乾かす
- 手指消毒液を全体になじませる
特に次のタイミングで手を清潔にします。
- 調理や食事の前
- トイレの後
- 携帯トイレを処理した後
- おむつを交換した後
- 嘔吐物やごみに触れた後
- 傷の手当てや服薬の前
嘔吐や下痢が発生した場合は、汚れを素手で触らず、
避難所のスタッフ、保健師、自治体へ相談してください。
水が少なくても口腔ケアを続ける
「水がないと、歯磨きはできないわよね?」
まどかママが尋ねました。
「歯ブラシだけでも歯の汚れを落とせるよ。
使える水が少しあるなら、コップに分けて大切に使おう」
少量の水で歯を磨く方法
- コップへ少量の水を入れる
- 歯ブラシをぬらして歯を磨く
- 歯ブラシの汚れをティッシュで拭く
- 再び少量の水でぬらす
- 最後に少量の水ですすぐ
水がまったく使えない場合は、
口腔ケアシートや湿らせたガーゼで、
歯、歯茎、舌、頬の内側を優しく拭きます。
ガムをかめる人は、
糖分を含まないガムで唾液の分泌を促す方法もあります。
ただし、飲み込む力が弱い人や小さな子どもには適しません。
入れ歯も清潔にする
入れ歯を汚れたまま装着すると、
口臭、粘膜の炎症、細菌の増加につながります。
外して清掃できない、口の中に傷がある、
食事のときに痛む場合は、歯科医師、歯科衛生士、保健師などへ相談します。
トイレの衛生を守る
断水時に下水管や排水設備の安全が確認できない場合は
無理に水を流さず携帯トイレを使います。
携帯トイレの基本的な使い方
- 便器に大きな保護袋をかぶせる
- その上に排泄用の袋を取り付ける
- 用を足した後に凝固剤を入れる
- 空気を抜いて袋の口を固く結ぶ
- 防臭袋やふた付き容器へ保管する
- 自治体の指示に従って処分する
処理後は手を清潔にします。
ごみを生活空間や食料の近くへ置かないことも重要です。
トイレに行きたくないからと、水分を減らしてはいけません。
入浴再開時にも注意が必要
断水が解消したり、仮設風呂や入浴支援が始まったりしても、
体力が落ちた人が急に長風呂をすると体調を崩す可能性があります。
久しぶりに入浴するときの注意
- 入浴前後に水分を取る
- 熱すぎる湯を避ける
- 長湯をしない
- 空腹時や食後すぐを避ける
- 飲酒後に入浴しない
- 体調不良時は無理をしない
- 高齢者は一人で入らない
- 脱衣所と浴室の寒暖差を小さくする
- 傷や医療機器がある場合は医療者へ相談する
体が汚れているからと、力を入れて洗う必要はありません。
皮膚が弱っていると、強くこすることで傷ができる可能性があります。
持病を悪化させないための対策
衛生対策と同じくらい大切なのが、
薬と治療を中断しないことです。
日頃から備えておきたい医療情報
- お薬手帳
- 処方薬の一覧
- 病名と治療内容
- アレルギー情報
- かかりつけ医の連絡先
- 保険証・マイナ保険証の情報
- 医療機器の種類
- 緊急連絡先
- 普段の血圧や血糖値
スマートフォンだけでなく、紙でも携帯しましょう。
停電や通信障害が起きても、支援者へ治療内容を伝えられます。
特に注意したい人
- 心臓病や高血圧のある人
- 糖尿病の人
- 腎臓病で水分や食事制限がある人
- 呼吸器疾患のある人
- 人工透析を受けている人
- 在宅酸素や医療機器を使う人
- 皮膚疾患や傷がある人
- 妊婦、乳幼児
- 寝たきりの人
- 認知症の人
水分や薬を自己判断で増減すると危険な場合があります。
治療上の制限がある人は、
できるだけ早く医師、薬剤師、保健師へ相談してください。
災害関連死を防ぐ毎日の健康確認
ラボる君は、防災すぐるパパとまどかママに
「朝と夕方の1日2回、家族の状態を確認しよう」
と伝えました。
毎日確認したい項目
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 水分 | 定期的に飲めているか |
| 食事 | 食欲が極端に落ちていないか |
| 排尿 | 回数や量が急に減っていないか |
| 排便 | 便秘や下痢が続いていないか |
| 体温 | 発熱や悪寒がないか |
| 呼吸 | 息苦しさ、せき、胸痛がないか |
| 足 | 片足だけ腫れたり痛んだりしていないか |
| 皮膚 | 傷、赤み、腫れ、膿、床ずれがないか |
| 服薬 | 飲み忘れや薬切れがないか |
| 意識 | 反応が鈍い、会話がおかしいなどがないか |
| 心の状態 | 眠れない、強い不安、無気力が続いていないか |
紙へ記録しておくと、医療者に相談するときに役立ちます。
すぐに医療機関や救護班へ相談したい症状
次の症状がある場合は、様子を見続けず、
医療機関、救護所、保健師、避難所スタッフなどへ相談してください。
- 強い胸の痛みや息苦しさ
- 意識がもうろうとしている
- 片側の手足が動かしにくい
- ろれつが回らない
- 水分を飲めない
- 尿が極端に少ない
- 高熱が続く
- 嘔吐や下痢が続く
- 片方の足だけ腫れたり痛んだりする
- 傷の周囲が赤く腫れ、膿や悪臭がある
- 急に歩けなくなった
- 常用薬がなくなりそう
- 強い不安や不眠で生活できない
- 自分を傷つけたいと感じる
緊急性が高い場合は119番を利用します。
電話がつながりにくい場合は、
周囲や避難所の運営者へ助けを求めましょう。
在宅避難でも支援を受ける
自宅で避難生活をしていると、
避難所にいる人より健康状態の変化を発見されにくくなります。
在宅避難者も、
自治体や最寄りの避難所へ居場所と連絡先を登録し、
次の情報を確認してください。
- 給水所の場所と時間
- 仮設トイレの場所
- 入浴支援や仮設風呂
- 洗濯支援
- 医療救護所
- 薬の相談窓口
- 保健師や福祉チームの巡回
- 食料、衛生用品の配布
- 福祉避難所や二次避難先
自宅で体調を維持できない場合は、
在宅避難にこだわらず、
福祉避難所、ホテル・旅館などの二次避難、
医療機関への移動を相談しましょう。
らぼる君の衛生用品チェックリスト
最低限そろえたい物
- 大判の体拭きシート
- ウェットティッシュ
- 手指消毒液
- ドライシャンプー
- 歯ブラシ
- 口腔ケアシート
- 液体歯磨き
- 携帯トイレ
- 凝固剤
- 防臭袋
- 使い捨て手袋
- マスク
- ペーパータオル
- 下着と靴下
- 保湿剤
- 生理用品
- おむつ・尿取りパッド
- 常用している塗り薬
- 体温計
衛生用品は家族全員が同じ物を使えるとは限りません。
乳幼児、敏感肌の人、介護が必要な人に適した製品を分けて備えます。
家族で決める「災害関連死を防ぐ5つの約束」
- トイレを理由に水分を減らさない
- 入浴できなくても、口・手・陰部・足を清潔にする
- 薬を自己判断で中断しない
- 朝と夕方に家族の体調を確認する
- 異変を感じたら早めに支援を求める
「災害の後だから、多少の体調不良は我慢しなければならない」
と考えるのは危険です。
小さな体調変化を早く見つけて相談することが、
重症化を防ぎます。
まとめ|命を守る衛生対策は入浴だけではない
「お風呂に入れないことだけを心配していたけれど、
歯磨きやトイレ、水分、薬も全部つながっているんだね」
防災すぐるパパが言いました。
「体を全部洗えなくても、
汚れやすい部分を少しずつ清潔にすればいいのね」
まどかママも衛生用品を確認し始めました。
らぼる君が二人に伝えます。
「災害関連死は、
避難生活の小さな負担が積み重なって起こることがあるんだ。
水分、排泄、口腔ケア、清拭、服薬、運動、睡眠を毎日確認しよう」
お風呂に入れないときも、命を守る方法はあります。
体拭きシートや少量の水で清潔を保ち、
薬と水分を確保し、家族同士で体調を確認する。
そして、異変があれば我慢せず支援を求めることが大切です。
災害を生き延びた命を、避難生活の中でも守り続けましょう。

